ケンショウ学級
僕は亮二の亡骸を抱えあげる。皮膚だろうか、黒く焦げた何かがヒラヒラと落ちた。
「馬鹿野郎、弱虫のくせに。弱虫のくせに何してんだよ」
皆が死んでいく。どうしてこんなことになったかも分からない。なんで僕達がケンショウ学級なんてものに関わらなければならなかったんだ。
こんな残酷な殺人ゲームに巻き込まれなければ、きっと今だって変わらずに僕と春馬と小池っちと亮二と……代わり映えもそんなにない日常を、平穏な毎日を過ごしていたはずなのに……
「上杉くん……」
僕はぼろぼろと涙を零していた。もうとっくに限界だったのだろう。こんな馬鹿げた状況も、クラスメイトが次々に死んでいくことも、自分には何も出来ないことも。
「もういいや。もう限界だよこんなの。だから、僕もこの検証からリタイアさ……」
僕が死を選ぼうとした時、事務室の扉が乱暴に叩かれる音がした。それが、僕の言葉を遮った。
「なんだ、誰も居ないのに……」
扉にある窓からは人が見えない、でも今でも継続して強く扉を叩く音が続いている。
「事務室で何か起きているんじゃないのかな?扉を開けてみましょう」
原田さんがそう言って立ち上がった。足取りはふらついていた。それもそのはずだ、今まさに人の死を見届けたばかりなのだから。それでも、こうして動ける強さが眩しかった。
「んっ、んんっ……固い、誰か手伝って」
扉は固く閉ざされ、原田さんが開けようとしている間にも扉を叩く音は続いている。それに何だか強くなってきている気もした。
「上杉くん!手を貸してお願い!!」
1度は諦めた僕の中で何かが光を放っていた。暗い暗い闇の底、水底のような場所でその声は確かに光を放っていたんだ。
「……ごめん原田さん。僕、生きることを諦めようとした」
亮二の亡骸を静かに床に寝かせて、僕は原田さんの元へと駆け寄った。そして扉に手をかける。
「ありがとう原田さん。僕はもう生きることを諦めない。絶対に皆でこの教室から抜け出そう」
僕は片足を壁に当てて、思い切り扉を引いた。アキラの血で滑りそうにになる取手を必死で掴みながら何度も何度も強く引いた。
すると内側からジャラっと何かが地面に落ちる音がして、一気に扉が軽くなった。
「うわぁ」
「きゃあっ!」
扉が勢いよく開き、強く引っ張っていた反動で僕と原田さんは後ろに投げ出されて尻もちを着いた。
扉が空いた先では、ロープで手足を縛られ布で口を塞がれた佐野くんと田口くんそれに春馬の姿があった。
原田さんと僕は目を合わせて、同時に頷いた。そして倒れている3人に駆け寄ってロープと布を解いた。
「ぷはっ、くそアキラの野郎ただじゃ済まさねえ済まさねえ!」
「ありがとう藍斗、助かったよ……いったい何があったんだ?」
拘束が解かれた3人は安堵する間もなく、フリースペースでの惨劇を目にしていた。アキラと櫻田くんの惨たらしい死体と、焼け焦げた人間だったもの。
「あれは……亮二なのか?」
残された囚人を見て春馬がそう言った。僕は、3人についさっき起きた事の顛末を静かに伝えた。