ケンショウ学級
「アキラの野郎、なに勝手に死んでんだよ。オレがこの手で殺してやろうと思ってたのによ」
アキラの死体を見下ろしながら佐野くんはそう呟いた。
「冗談でもそんなこと言わないで!クラスメイトを殺すとかそんなこと!!」
原田さんの声がフリースペースに響き渡る。真っ直ぐな言葉がいつまでも反響しているような気がした。
「……これ亮二なのか?」
「うん……」
春馬は亮二の亡骸の傍に膝をついてそっと、亮二の胸に手を置いた。
「弱虫のくせに『良くやったな』、皆を守ったんだよな?」
僕が言わなければならなかったこと、罰を受けるその瞬間まで亮二は僕のその言葉を待っていたはずだった。自分の死がすぐそこまで近づいていることを知りながら、ただ友達である僕にその一言を言ってもらうために亮二は自分の命を投げ出して行動したのに。僕はその言葉すら届けてやることはできなかった。
「色々考えるところはあるだろうが、さっさとこいつらを運んでやろう。掃除も必要だよな……田口?
おい、田口はどこだ!?」
佐野くんの慌てる姿に僕らも反射的に周りを見回した。確かに春馬と佐野くんと一緒に田口くんの拘束も取った。そのまま一緒にこのフリースペースに来たはずだったのに、今はその姿が見られない。
「あいつ、まさか……!?」
佐野くんは事務室に慌てて入っていったがすぐに戻ってきて叫ぶ。
「田口早まんな!!どこだ?返事しろ!?」
佐野くんはその足のまま消毒のシャワーがある場所を見て、すぐに戻ってきた。そして食堂の方へと駆けていく。
「おい、田口!」
「……こないでたっちん!!」
その声は小さく響いていた。食堂には誰もいない。けど確かにこの空間に田口くんの声は響いていた。
「そこか!そこだな……出てこい田口」
佐野くんが急に弱々しく見えてしまったのは錯覚ではないのだろう。おぼつかない足取りで佐野くんは田口くんの声がするあの場所へと近づいていく。
「……オレ、このクラスけっこう好きだったよ。色んなやつがいて、いろんな個性があって、いろんな刺激を貰えて、たっちんや寺井みたいなバカやる親友も出来て」
「おい、田口やめろ。そんなこと聞きたいんじゃない」
懲罰房は内側から何かで塞がれているようで、佐野くんが開けようとしても開かなかった。
扉越しに田口くんは続ける。
「うちってほら、堅物な両親だから耳にタコができるくらいに「あんな不良とつるむのはやめなさい」って言われてた。でも、オレはたっちんと寺井と馬鹿やってる時間が本当に好きだった。ありがとう、こんなオレを受け入れ続けてくれて……」
「馬鹿野郎受け入れるとか受け入れないとかじゃねぇ、お前は俺達の親友だ!誰がなにを言おうが知ったことねぇよ。オレがお前に生きてて欲しいんだ」
佐野くんの叫びが虚しく反響する中で春馬が僕に呟いた。
「……は?どういうことだよ」
それが春馬と交わした最後の言葉になるなんて思いもしなかったんだ。
「……オレ信じてるからたっちんが生き延びること。たっちんはアイツなんかじゃないってこと」
「やめろ、絶対に言うな。やめろよ」
「泣かないでよたっちん、オレはもう誰も死ぬのを見たくない。1人居なくなる度に穴が空いて、もう限界なんだだからさ、せめて涙で見送ることだけはしないでくれよ」
田口くんは懲罰房の中でリタイアを宣言した。
「田口馬鹿野郎ぉぉおっ!!」
「……ばいばい、たくや」
懲罰房を塞ぐ扉の、本当に僅かな隙間から光が点滅した。それが電気ショックによる罰が執行されたことを如実に語っており、田口くんの声がその後聞こえることは無かった。
アキラの死体を見下ろしながら佐野くんはそう呟いた。
「冗談でもそんなこと言わないで!クラスメイトを殺すとかそんなこと!!」
原田さんの声がフリースペースに響き渡る。真っ直ぐな言葉がいつまでも反響しているような気がした。
「……これ亮二なのか?」
「うん……」
春馬は亮二の亡骸の傍に膝をついてそっと、亮二の胸に手を置いた。
「弱虫のくせに『良くやったな』、皆を守ったんだよな?」
僕が言わなければならなかったこと、罰を受けるその瞬間まで亮二は僕のその言葉を待っていたはずだった。自分の死がすぐそこまで近づいていることを知りながら、ただ友達である僕にその一言を言ってもらうために亮二は自分の命を投げ出して行動したのに。僕はその言葉すら届けてやることはできなかった。
「色々考えるところはあるだろうが、さっさとこいつらを運んでやろう。掃除も必要だよな……田口?
おい、田口はどこだ!?」
佐野くんの慌てる姿に僕らも反射的に周りを見回した。確かに春馬と佐野くんと一緒に田口くんの拘束も取った。そのまま一緒にこのフリースペースに来たはずだったのに、今はその姿が見られない。
「あいつ、まさか……!?」
佐野くんは事務室に慌てて入っていったがすぐに戻ってきて叫ぶ。
「田口早まんな!!どこだ?返事しろ!?」
佐野くんはその足のまま消毒のシャワーがある場所を見て、すぐに戻ってきた。そして食堂の方へと駆けていく。
「おい、田口!」
「……こないでたっちん!!」
その声は小さく響いていた。食堂には誰もいない。けど確かにこの空間に田口くんの声は響いていた。
「そこか!そこだな……出てこい田口」
佐野くんが急に弱々しく見えてしまったのは錯覚ではないのだろう。おぼつかない足取りで佐野くんは田口くんの声がするあの場所へと近づいていく。
「……オレ、このクラスけっこう好きだったよ。色んなやつがいて、いろんな個性があって、いろんな刺激を貰えて、たっちんや寺井みたいなバカやる親友も出来て」
「おい、田口やめろ。そんなこと聞きたいんじゃない」
懲罰房は内側から何かで塞がれているようで、佐野くんが開けようとしても開かなかった。
扉越しに田口くんは続ける。
「うちってほら、堅物な両親だから耳にタコができるくらいに「あんな不良とつるむのはやめなさい」って言われてた。でも、オレはたっちんと寺井と馬鹿やってる時間が本当に好きだった。ありがとう、こんなオレを受け入れ続けてくれて……」
「馬鹿野郎受け入れるとか受け入れないとかじゃねぇ、お前は俺達の親友だ!誰がなにを言おうが知ったことねぇよ。オレがお前に生きてて欲しいんだ」
佐野くんの叫びが虚しく反響する中で春馬が僕に呟いた。
「……は?どういうことだよ」
それが春馬と交わした最後の言葉になるなんて思いもしなかったんだ。
「……オレ信じてるからたっちんが生き延びること。たっちんはアイツなんかじゃないってこと」
「やめろ、絶対に言うな。やめろよ」
「泣かないでよたっちん、オレはもう誰も死ぬのを見たくない。1人居なくなる度に穴が空いて、もう限界なんだだからさ、せめて涙で見送ることだけはしないでくれよ」
田口くんは懲罰房の中でリタイアを宣言した。
「田口馬鹿野郎ぉぉおっ!!」
「……ばいばい、たくや」
懲罰房を塞ぐ扉の、本当に僅かな隙間から光が点滅した。それが電気ショックによる罰が執行されたことを如実に語っており、田口くんの声がその後聞こえることは無かった。