ケンショウ学級
佐野くんがフリースペースへと戻ってきていた。両頬は赤くなり、袖は濡れていた。

佐野くんは焦げた匂いが一層増したフリースペースを見て、ほんの少しだけ目を逸らした。田口くんの声はしっかりとここまで聞こえていて、同じようにもう耐えきれなくなった人達が一斉にリタイアしたのだ。

本当に比喩でもなんでもなくあっという間に残されていた6人の命が、最期の無慈悲な光と共にその人生に幕を下ろしたのだ。



フリースペースに残されたのは僕と春馬と原田さん、そして佐野くんだけだった。

「これで、もう私たちだけになっちゃったんだね」

原田さんはペタンと床に座り込み、俯きながらボロボロと涙をこぼしていた。

「つまりは、やっぱりこの中の誰かだってことだよな」

佐野くんは悔しそうに壁を思い切り殴って、小さく呟いた。

「……これ以上は無益な殺生は起きない。この4人だけが終わらせることができる」

春馬は皆から背を向けていた。僕は何かを言うこともできなかった。

監獄生活6日目。
ハーバード大学で中止になったとされる、その日に20人で生活していたはずの僕らはたった4人にまで減ってしまった。

看守は凶暴で横柄になり、囚人は気力を失い、ある人は権威という制服で偽りの権力を振るい、ある人は権威に歯向かい人の道を外れてしまった。ある人は恐怖に耐えきれなくなり、ある人は友達の死から目を背ける為に自ら命を閉ざす道を選んだ。

監獄という閉ざされた世界の中で、人はどこまでも残酷になれることが証明された。

「……決着付けようぜアイツさんよぉ」

それと共に、生きる希望を諦めない人間がいることもここに同時に証明されたのだと思い込みたかった。



< 216 / 235 >

この作品をシェア

pagetop