ケンショウ学級
その可能性が見えた瞬間、僕は何故か納得してしまった。

「死人を確認した人はいない。電気ショックによる罰は大上先生が初めてで僕らに恐怖を植え付けた。でも……」

僕達は罰によって電気ショックを受ける友達を何人も見た。その時と大上先生の時とで違いがあったことに意識は向いていなかった。当たり前だ、普通に生きてきた中学生が人の死を初めて目の前で見せつけられる。あまりにも大きすぎる印象に隠れて、不自然な部分に目がいかなかった。

「大上先生の電気ショックの時だけ、光があまりにも強かった。まるでその光の中で何かが入れ替えられるのを隠すかのように……」

大上先生は佐野くん達を止めるために、自分で施錠した扉の前にいた。そこで、電気ショックによる罰が執行されたわけだけれど、もしあの光が扉の向こうに用意されていた他の死体や人形と自分を入れ替える為の演出だったとしたら?

あれだけの閃光、絶叫の中で扉が開いたとして誰か気づけただろうか?もし気づいたとして、それでも大上先生が変わり身をしただなんて突飛な考えをする生徒がいただろうか?

生徒が死ぬ度に菊の花が机に置かれていた。動物実験などをする際には、学者達は自分で育てて、その命を頂戴して実験を行うこともあると聞いたことがある。その時に育てた動物の愛着がわかないなんて言いきれない。

30日間で菊の花が枯れたことはなかった。初日に死んでしまった小野さんの菊の花も最後まで白く可憐に咲いていた。枯れる度にきっと花を生け変えていたのだろう。そこまで拘る犯人ならもし大上先生の死に思うことがあるならば教壇に菊の花があっても良かったんじゃないか?

アイツが妙に先生のような素振りに拘ったのも、実験対象とは言え、僕達のことを生徒だと思っていたからだとしたら。

「--さぁ、いよいよ残り時間は1分を切ったよ」

僕にあの本を渡したのも、そこにヒントを書いたのも全てはどこかで自分のことを見つけられるように仕組んでいたんじゃないか?

あまりにも飛躍した考えだけれども、もし春馬が僕に自分の名前を書くように言ったように、アイツもこのケンショウ学級から解放されたいと願っていたら。それらの行動に合点がいくんじゃないのか?

もしこの答えが4番目の未来だったとして、果たして佐野くんと原田さんはこのことに気がつくだろうか?

原田さんならもしかしたら柔軟な発想で辿り着くかもしれないし、佐野くんなら直感とかひねくれた考えで見事に当てるかもしれない。

僕はペンをしっかりと握り直した。

「大上先生か春馬か……」

ペンを動かすと、少し歪にではあるけれどもそこに文字を写し出していく。

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