ケンショウ学級
アイツの声はすぐさま大上先生への罰を、無意識の内に強く想起させた。
身の毛のよだつ思いとはこのことなんだろうな。
まさか、自分が身をもって体感することになるとは思ってもみなかったのだけれど。
「それでは『ケンショウ学級』の一時間目を開講します。
では、出欠を取るので元気に返事をするように」
柔らかい口調だけど、全員が恐怖を感じていた。
いや、柔らかい口調が違和感しかなくて余計に怖かったんだと思う。
「それでは赤坂さん」
「…………ひっ」
赤坂さんは言い知れぬ恐怖から声は上ずり、返事ができない。
この状況でまともに返事なんかできるわけがない。
そもそも、なんでこいつは教師みたいなことをしようとしてるんだろう。
「あれ?このクラスでは返事は「ひっ」って教わってるのかな。
言ったよね。元気に返事をするようにって」
するとモニターの画面が切り替わり、暗い教室を写し出した。
もぬけの殻になった教室の前の入り口。
そこに横たわるモノをカメラがアップにする。
「大上先生…………やっぱり」
そこに写し出されたのは面影では認識できないが、確かに僕らの目の前で電気ショックを受けて倒れた大上先生だった。
やはりしばらく見つめてもピクリとも動かない。
「教室とは集団生活の場でもあります。その中で大切なのはコミュニケーションであり、互いの理解です。
出欠の確認も、教師と生徒という関係のなかでの重要なコミュニケーション。
それができないというのなら、赤坂さんには大上先生と同じ罰を受けてもらうしか無さそうですね」
暗い部屋に響き渡る男の脅迫に、皆が震えた。
「ごめんなさい、待って返事します!できます!
だから殺さないでくださいぃ」
赤坂さんの必死の訴え。
画面がまた男の部屋に切り替わった。
「素直で宜しい。
ですが、こうして公示したことですので次はありませんよ?では改めて赤坂さん」
「はい…………はいぃ!!!」
赤坂さんの今までに聞いたことがないような大声が、窓も扉もない空間に響いた。
「素晴らしい。では雨宮さん」
「は、はい!!!」
「井上くん」
「はい!」
「入江さん」
「はい!」
異様な光景だった。
画面越しの相手に涙を流しながら、震えながら大きな元気の良い返事をする。
こんなのはまともじゃない。
「上杉くん」
「…………
はい」
「上杉くん…………」
まさか、小さかったのか?それだけで本当に大上先生みたいになるっていうのか?