ケンショウ学級
しかし、予想に反してアイツは上機嫌だった。
「心なんて分かるわけねぇ。良いですね、素晴らしい回答ですよ佐野くん」
そう良いながらアイツは手にしていた資料に何かを書き込んだ。
筆記用具の紙を擦る音からして、手にしているのはマジックだろうか。
「そうです。心は人間が人間たる一番の特徴でありながら、本当に近年になるまで研究の対象ですらなかった。
しかし、今では科学的見地や臨床的なアプローチから人間の心理は様々な研究が行われるようになりました」
なんなんだろう。
人間の心がアイツにとってそんなに大切なことなのだろうか。
それは人の命を使ってまでのことなのだろうか?
「それでは上杉くん」
「あ、はい!」
「素晴らしい返事です。
上杉くんは、もし自分や他人の心を理解することで、思う通りに影響を与えることができる。。。としたら、どう思いますか?」
自分の心や他人の心に思い通りの影響を与えることができるとしたら?
僕はその言葉を聞いて無意識に原田さんを見ていた。
原田さんが首をかしげるのを見て、自分が彼女を見つめていたことに気付いた。
「…………っ。
えっと、もし本当にそんなことができるのなら嬉しいけど、でもそれ以上に怖くなると思います」
自分の心。一時の感情だってコントロールすることは難しい。
ましてや他人の心となったら無理だと思う。
それって、例えば。本当に例えばの話だけれど原田さんが僕を好きになるようにしたりができるってことでしょう?
そんなの、可笑しいよ。
とてつもなく怖いことだ。
「ふむふむ。このクラスは素晴らしいですね。
さぁ、ではこのままお話をするのも良いのですが、そろそろワンちゃんが我慢できません。授業に入りましょう」
「…………ワンちゃん?」
すると男は画面越しに僕らの背中に向けて指を指した。
今まではただの箱のような空間だと思っていたのだけれど、指を指されて意識をしてはじめてその向こうに何かがいることに気付いたんだ。
「うぅぅぅぅぅぅう!
うわぁあううううう」