ケンショウ学級

「あ、あそこ、なんか書いてあるよ?」

「てかワンちゃんは?」

うちのクラスの秀才、中崎 亜香里(なかざき あかり)さんが、真正面に、現れた壁の中央の上部を指差していた。

僕たちはさらに近づき、その何かに目を凝らした。

まるで木の板を棒か何かで傷つけた跡のような掠れた文字。

「パブろ…………『パブロフの犬』?」

え、パブロフの犬って。

まさか、あの?


「おやおや、みなさん気が早いですね。

『ケンショウ学級』一時間目の検証実験は『パブロフの犬』になります」

僕はそれを少しだけ知っている。

だから、ほんの少し安心してしまったんだ。

でもそんな安心感は男の次の言葉で簡単に打ち砕かれることになるのだった。

「『ケンショウ学級』では見学検証と実施検証の二つの種類の講義を用意しています。

今回は見学検証ですので皆さんは我々が検証実験を行うのをただ見ていてもらおたいのです」

「見学検証と実施検証?」

「今回はただ見るだけ…………?」

「なんだ、大上先生を殺したりするからどんな恐ろしい実験に付き合わされるのかと思ったら見てるだけかよ」

クラスの中でも「ただ見ているだけ」という、拍子抜けにも思える指示にそんな声が所々から上がった。

「ただし!」



ぞくっと背中が凍りつく感覚がしたのは、きっと僕だけの思い違いではなかったはずだ。
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