ケンショウ学級

思いきり走る中で僕はアイツが言っていた言葉を繰り返し思い出していた。




「脳波の測定に意義が見られない状態になった場合には、検証への参加価値なしと見なし死んでもらいます」





脳波の測定に意義が見られない状態。つまりそれは脳波に動きがなくなった時だ。

どれだけの恐怖を感じても良い。

涙してもいい。

無関心になってもいい。

それらは脳波の波としてアイツにとっての成果となる。

脳波の波が動かなくなればアイツにとっては実験の成果がないことも同義だ。

つまり、死んでしまったり、もしくは生きていたとしても意識を失って脳が生命維持に使う部位以外を活性化しなくなった時のアイツにとって参加価値がなくなるのだ。

「原田さん!!早く!!」

5歩もかからないはずのこの距離で僕は思いきり手を伸ばしているのに、一向にして原田さんが近づいていない様な感覚だった。

周りの動きもスローモーションの様に見える。

「くそ、安心してしまった」

今回の実験、被験者つまり野比先生の役割をしていたら過度のストレスによって意識を失うなどのことが容易に考えられたかもしれない。

しかし僕らは今回の実験ではただの見学者であり、気絶をする可能性は極めて低かった。

だから僕は二回目のサイレンの時に、皆に耳を塞がせた。

急に爆音で聴覚を刺激された場合にはショックによって気絶をする可能性があるかもしれない。

つまり、皆が罰則によって殺される可能性があるかもしれなかったからだ。

「藍斗くん…………なんで」

だから僕は安心してしまった。

皆が僕の言葉に反応して耳を押さえてくれたから、気絶せずにしっかり苦しんで脳波を計測していたから。

それなのに、まさかこんなことになるなんて。

野比先生だと誰も知らなかった時から、小野さんの反応だけはどこか過敏だったじゃないか。

勿論急にあんな光景を見たら怖くなる。

でも、小野さんの怖がり方は僕らはとは明らかに違っていたのに。


あと二歩ーーーー


僕らが感じた恐怖は「非日常的な光景に対する漠然とした恐怖」だった。

でも、小野さんが感じていたのは「鎖でつながれた男へと向けられた確かな恐怖」だったじゃないか。


あと一歩ーーーーーー

< 45 / 235 >

この作品をシェア

pagetop