ケンショウ学級
「おい、嘘だろ…………?
あとほんの少しだったのに」
僕の体内時計でも残りはほんの数秒、もしかしたらわずかな誤差によって実験終了の時刻になっていたかもしれない。
それなのに、こんなことってありなのか?
「紗由理?紗由理ぃ!!!」
寺井くんは何度も何度も眞木さんの名前を叫ぶ。
ほとんどの人は耳を塞ぎ、後の僕らでさえもう寺井くんを直視することなんてできなかった。
痛々しくて、悲しくて、やるせなくて。
何より、怖かったからだ。
「今回のケンショウ実験『ブアメードの血』の実験は112分経過し、出血量2リットルを超過した為終了しました」
やはり1時間42分というのがこの実験のリミットだったのだ。
それに気づいておたから何ができるわけではなかった。
なかったのだけれど、僕は深く後悔をしたんだ。
「今回の実験では擬似的に被験者には継続的な出血状態であると思い込んでもらい、そして君たちへの講義を通じて出血死に関する情報を与えました。
彼らは傷を負っていなかったのに、思い込みによってあたかも多量の出血をしているかのように身体症状が現れました。
これを「ノーシーボ」効果と呼びます」
実験の後のアイツの弁舌。
どうでも良いよ。
だから、早く解放してくれよ。
「ある病気の患者を集めて二つのグループに分けます。そして実際に医師に受診しながら一つのグループには正規の薬を与え、一方のグループには偽薬を与えました。
その結果は有意な差がなかった。つまり医師という信頼できる人物からもらった薬は効くと思い込んだがために偽の薬でも症状の改善が見られたということです。これを「プラシーボ効果」と呼びます」
泣き崩れた寺井くんを田口くんがさすっていた。
僕はまだ好きという感情もちゃんとは分からないから、恋人を失う喪失感なんてものは想像もできないけれど。
ただ寺井くんを見ているだけで、胸が苦しくなった。
「プラシーボ効果は望ましい思い込みであり、その反対のノーシーボ効果は望ましくない思い込みとなります。
今回の実験では偽の出血によって死に至るのか?というノーシーボ効果の究極的な課題を実証したということです。
結果は見ての通りです」
そう、改めて言うのだ。
アイツは僕らが聞きたくもない改めてを嬉々として。
「3人の被験者には個人差があれど、出血量の推移に」即した身体症状が現れ、死にも至りました。
つまりノーシーボ効果により人間は死ぬ。ということが照明されたのです。
尊い犠牲となった中村さんと堀田くんに敬意を」
え?中村さんと堀田くんだけ?
眞木さんは?
眞木さんはどうなったんだ!
「眞木 紗由理さんは昏睡状態にありますが一命をとりとめています。よってこの実験での死者は2人ということになりました」