ケンショウ学級

皆が席についたのを見て、アイツに指命された雨宮さん達が教室の前の扉からカートを入れた。

ほのかにカレーのスパイシーな臭いが漂う。

雨宮さんがカートを覗きこむと動きが固まった。

「雨宮さん?」

雨宮さんは何故か申し訳なさそうな表情をして、皆のことを見渡した。

そして、震える手でカレーの乗ったトレーを持つ。

「え?」

お皿は普通だ。

というか、普段給食で使っているお皿と同じものだった。

皆が目を疑ったのはその量だった。

「大盛とかのレベルじゃねぇだろーがそれ」

「ただの嫌がらせじゃん。残しちゃいけないのに、こんな…………」

山盛りにされたご飯に、これでもかとカレールーがかけられている。

「あのね…………これ」

どうして雨宮さんがあんな表情をしていたのかがこの後ようやく判明する。

「大盛カレー。5つだけなの」

え?5つだけ?

「それも、トレーに名前が書かれてる」

「な!?」

「ちょ、誰よ。ワタシあんなの食べきれない!」

31個の中のたった5つだけ特大の大盛。

僕は無意識に寺井くんと眞木さんを見てしまっていた。

「名前が書かれてるのは…………

小池くん」

「えっ?」

小池っちはもともとそこまで食が太くはない。

食べられない量ではないだろうけれど、今日は頭痛を訴えていた。

小池っちは無意識に残してしまったときのことを考えてしまうのだろう、頭を抱えている。

「それから、井上くん、上杉くん」

「僕も…………か」

大丈夫。確かにいつもより多いけど食べきれない量ではない。

井上くんに関してはいつもおかわりしているくらいだし、むしろこのくらいの量の方が嬉しいくらいかもしれない。

あと二人だ。

「あと寺井くん…………」

やっぱり。

じゃあ、まさか、もう一人は。

「最後の一人が…………」

雨宮さんはビクビクと震えながら寺井くんを見た。

そこでようやく寺井くんも、あと一人が誰であるかに気がついたのだろう。

言葉は何も発せずに、机を思いきり拳で叩きつけた。

「最後は…………眞木さん」

どう考えても嫌がらせだった。

それ以外にどんな意図があれば、意識も混濁としている眞木さんを選ぶことができるっていうんだ。

「…………。

ラッキーな大盛カレーの諸君は他の人にご飯を分け与えることはできません。ただし、同じ大盛カレーの人の中でなら許可します」

「雨宮てめぇ、何言ってんだ?」

「ひっ…………」

佐野くんの怒りの声に雨宮さんが後ずさりをした。

雨宮さんは慌てて1枚の紙を見せた。

「これに書いてあったのよ。

私は読んだだけ!」

B5用紙くらいのメモが四つ折りにされたものが雨宮さんの手に握られていた。

誰かの直筆だ。

アイツが書いたものだろうか?

「もう、嫌。

配るよ?配るからね!」

メモをなげすてて雨宮さんはカレーの乗ったトレーを配り始めた。

それを見て野中くんと濱田くんも配膳を始めた。

僕の目の前には二人前以上はありそうな大盛カレー。

隣の小池っちの表情もひきつっていた。




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