俺様社長と結婚なんてお断りです!~約束までの溺愛攻防戦~
◇◇◇


「羽衣子。今から本店行くから、ちょっと付き合え」

「えぇー!? これから?」

午後8時半。
洸に次々と押し付けられる仕事をようやく片付け、帰宅の準備をしていた羽衣子に洸が言った。

洸や羽衣子の働くプリュムのオフィスは六本木の複合ビルの中にあった。
美羽町の本店は六本木から電車でも車でも1時間ちょっと。今から往復したら帰宅は深夜になってしまう。

ちなみに洸はオフィスから歩いてすぐのマンションに住んでいる。羽衣子から見れば超がつく高級マンションだけど、洸の稼ぎからすれば堅実なくらいかも知れない。

羽衣子は六本木から電車で15分、もう少し家賃の安いエリアでごく普通のアパートを借りて暮らしている。


「今日、観たいドラマがあったのにー」

洸はブツブツ文句を言う羽衣子を問答無用で助手席に押し込めた。

立場的には羽衣子が運転すべきなんだろうけど、生憎ペーパードライバーなので運転はいつも洸の担当だった。




夜の方がぐっと華やかさを増す六本木の街を洸の愛車が駆け抜けていく。

ギラギラとしたネオンが眩しくて、羽衣子は思わず目を細めた。


「・・・何しに行くの? 美羽町、久しぶりだな」

ドラマが観れないのは残念だけど、久しぶりに美羽町に行けるのは少し嬉しい。
洸の横暴にはすっかり慣れている羽衣子はあっさりと機嫌を治した。


「指輪のサンプルがあがったから。それの確認」

前を見つめたまま洸が答える。普段の傍若無人ぶりからすると意外なほどに、洸の運転は丁寧だ。
車は音もなく加速していき、羽衣子がぼんやり眺めていた景色もどんどん流れていく。
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