俺様社長と結婚なんてお断りです!~約束までの溺愛攻防戦~
「どのくらい寝てた?」

「動き出して5分で寝てた。のび太か、お前は」

「意外!!洸ちゃんでもドラえもんは知ってるんだねー」

夜、人気のない駐車場。洸は助手席に座る羽衣子に覆いかぶさるように身体を傾けていた。
助手席に座るのが自分じゃなくて、例えば川上さんのような美女だったら・・
なかなか色っぽいシーンかも知れない。
少なくとも、川上さんならドラえもんの話はしないよね。

そんな事を考えて羽衣子はクスリと笑った。


「ぼやっとしてないで、さっさと行くぞ」

せっかちな洸に追い立てられて、慌てて車を降りる。

県内一長いアーケードが自慢の美羽町の商店街。昔からちっとも変わっていない。さすがにどこのお店もとっくに閉店しているけど、顔触れもそのままなことに羽衣子はほっと安堵した。

駅前には新しいショッピングビルができたし、郊外にはいくつもの大型のSCが乱立している。そんな状況の中で美羽町の商店街は頑張っている方だろう。

永瀬宝飾店は商店街のちょうど真ん中あたりにある。緑色の外壁の古い2階建ての一軒屋。 1階がお店で2階はかつては永瀬家の居住スペースだった。今は事務所になっている。


「あ〜懐かしい匂い。 やっぱりここが一番落ち着く」

羽衣子は両手をぐっと天井に向けて、大きく伸びをした。
おじさんとおばさんが亡くなってもう10年近く経とうとしているのに、今でもここには二人の気配があった。

「いらっしゃい、ういちゃん」

今にも、そう言っておばさん台所から顔を覗かせそうな気がする。
おじさんは何も言わないけど、羽衣子を見つけると慈しむように目を細めるのだ。

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