俺様社長と結婚なんてお断りです!~約束までの溺愛攻防戦~
「うわ〜、すっごい美味しいっ」

まるで小学生みたいな感想だけど・・
あまりにも美味しくて、それ以外の言葉が見つからなかった。

ヒレ肉の柔らかさといい、ポルチーニソースの豊かな香りと滑らかな舌触りといい、全てが完璧、絶妙なバランスだ。

大きなグラスに注がれた赤ワインもぐんぐん進む。 普段はワインなんてほとんど飲まない羽衣子でも大丈夫な爽やかな飲み口だった。


洸が連れてきてくれたのは、ホテルの上層階に入っている鉄板焼きレストランだった。

全面がガラス張りの店内はどこに座っても東京の夜景が楽しめ、ほのかな照明と生演奏のピアノが奏でるジャズがしっとり落ち着いたムードを演出していた。

二人が座るカウンター席はシェフが調理するところを目の前で見ることが出来る。

これは確かにお値段以上の価値があるなぁと羽衣子は一人うんうんと頷いた。


「洸ちゃんの彼女だった人達は、いつもこんなに美味しいものを食べてたのかぁ」

羽衣子は羨望の気持ちをこめて呟くと、隣に座る洸に視線を向ける。

ブラックのスーツをさらりと着こなした洸はこんな高級なお店でもちっとも浮くことなく、むしろお店の方が洸を引き立てる舞台装置のようだった。

実際、老いも若きも関係なく女性客はみんな洸をチラチラと目で追っている。
そして、一様に羽衣子を見ては不思議そうに首をかしげていた。



羽衣子の無邪気な発言に洸は眉をひそめた。

「お前な・・・デートだって言ってんのに、元カノの話を出すなよ。基本のマナーだろうが」

「基本のマナー・・・ 洸ちゃんにだけは言われたくない単語だわ」

「うっせー」

羽衣子の知る限り、洸は中学生くらいからずーっと彼女が途切れたことはない。
最近は仕事優先で比較的おとなしくしているみたいだけど、昔はひどかった。

まるで衣替えでもするかのように季節が変われば彼女も変え、元の彼女と新しい彼女が喧嘩になることもしょっちゅうだった。

そんな状況だったので、羽衣子は洸の歴代彼女には同情の念しか抱いてなかったのだけれど、こんなに美味しいものを食べていたとは知らなかった。
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