俺様社長と結婚なんてお断りです!~約束までの溺愛攻防戦~
洸は懐かしむように店内を見渡してから、ゆっくりと口を開く。

「ここは俺が一番美味いと思ってる店なんだけど、来たのは今日が2回目。
前に来たのはもう随分昔だな」

「へ〜前は誰と来たの?」

「さぁ、誰でしょう?ーー気になる?」

洸はおもむろに羽衣子に顔を近づけると、くすりと笑った。
つややかな黒髪からのぞく瞳は無駄に煽情的だ。

「うん!! すごく気になる!!
誰と来たの? いつの彼女!?」

羽衣子は洸にきちんと彼女を紹介してもらったことは一度もない。どうせすぐ変わるし、いっぱいいて覚えられないし・・ってことで、羽衣子も積極的に知りたいと思ったことはなかった。

だから、洸がこんな風に目を細めて懐かしむ女性がいたなんて今初めて知った。
完全なる興味本位だけど、ものすごく気になる。

「ーー今のは俺を男として意識するポイントだったはずなんだけど・・・空気読めよ」

洸は肩をすくめて、溜息をつく。

「洸ちゃんの色仕掛けは見慣れてるもん。 で、誰と来たの!?」

羽衣子は身を乗り出して洸に詰め寄る。
洸は赤ワインを一口、ぐびりと流し込んでから羽衣子に種明かしをする。

「親父とおふくろ。 俺の大学合格祝いにって、多分かなり無理して奮発して連れてきてくれたんだよ。
結局、3人揃っての外食はこの店が最後になったな〜」

明るい口調ではあるものの、洸はどこか寂しげに目を伏せた。

そうか。彼女との思い出じゃなくて、おじさんとおばさんとの思い出の店だったんだ・・・ さっきの、大切なものを慈しむような洸の眼差しは両親に向けられたものだったのか。

ふと目線を上げると、洸が首を大きく傾けて羽衣子の顔をのぞきこんでいた。
間近で視線がぶつかって、羽衣子はびくりと肩を震わせた。
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