俺様社長と結婚なんてお断りです!~約束までの溺愛攻防戦~
「ばぁか、冗談だよ。俺は少し休んだら仕事しに会社に戻る。せっかくだから、お前は泊まってけよ。豪華エステもつけといたから」

洸は言いながら、羽衣子の頭をポンと叩いた。言葉通りに本当に冗談だったのか、戸惑う羽衣子の様子を見て冗談にしてくれたのか、羽衣子にはわからなかった。だけど、心の底からほっとしてしまった。洸と羽衣子はもうずっと長い間、兄妹みたいな関係だったのだ。今さら、男とか女とかそんな難しいことを言い出されても羽衣子にはどうしていいかわからない。

「いいの!? やったー!!5万の部屋なんて、人生最初で最後かも」

「言っとくけど、スイートだからもっとするぞ。一生、俺様に感謝しろよ」

いつも通りの会話。だけど、羽衣子はもはやいつも通りとは呼べない状態だった。洸の存在を意識し過ぎてしまって、落ち着かない。息苦しさすら覚える。

羽衣子の気持ちなど知ったことではないというかのように、エレベーターはすぅっと音もなく上がっていき最上階でピタリと停止した。

洸は慣れた様子でエグゼクティブフロアに降り立つと、足音をのみこんでしまうほどにフカフカの絨毯の上を颯爽と歩いて部屋に向かう。普通は女性をエスコートしたりするものなんだろうけど、そういう素振りは一切見せないところは洸らしい。

目的の部屋は一番奥に位置する角部屋だった。洸がルームキーを挿し込み、重そうな扉を開く。

一歩足を踏み入れて、羽衣子は思わず絶句した。

「‥‥‥‥」

「おいっ。 なに、固まってんだよ?」

「‥‥‥‥」

「とりあえずなんか飲むか。羽衣子、なににする?」

洸はだだっ広いリビングルームの端に置かれた冷蔵庫を開けながら羽衣子にそう声をかけた。

「な‥‥なに、この部屋?」

「なにって、ロイヤルラグーンホテルのスイートルームだろ」

「スイートってこんなに部屋があるの⁉︎
このリビングとかうちの社員全員呼んでパーティーできるんじゃない?」

「まぁ、できるだろうな。けど、そういうチャラチャラしたイベントはやんねぇぞ」

羽衣子は別にパーティーがしたいわけじゃない。そうじゃなくて、このリビングルームのとんでもない広さに驚愕しているだけだ。
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