俺様社長と結婚なんてお断りです!~約束までの溺愛攻防戦~
キスされる⁉︎ そう思った羽衣子は思わずぎゅっと身体を固くしたけれど、唇はおりてはこなかった。
どこまでも甘く、視線が交わるだけ。
羽衣子の心臓はまるで警告を発するかのように、ドクドクと大きく、早く、鳴り続けた。
「考えたことなかったんなら、考えて」
洸らしいストレートな要求。羽衣子は思わず顔を逸らしてしまった。洸のプロポーズが冗談じゃないことは、さすがの羽衣子でももうわかっている。この指輪も、さっきの言葉も、いま羽衣子を見つめる眼差しも、洸の本気がちゃんと伝わってくる。
だけど、考えたその先に待っている未来が羽衣子は怖かった。羽衣子がどんな結論を出したとしても、もう兄妹のような心地よい関係には戻れないのだ。すべてが変わってしまう‥‥。
羽衣子の逡巡を洸は敏感に察していた。
ふっと苦笑しながら、小さくつぶやいた。
「考えるのも無理‥‥か」
低く沈んだ洸の声に、羽衣子ははっと視線を戻す。洸の表情には色がなかった。ただただ、暗い目をして羽衣子を見ていた。
「まぁ、言いたいことは言ったから俺は帰るわ。一生に一度のスイート、満喫しろよ」
洸はくしゃりと羽衣子の頭を撫でると、振り返らずに部屋を出ていく。
扉が閉まるパタンという音がやけに大きく聞こえて、羽衣子はひとり取り残されたことを実感する。
「っ。なんで‥‥」
洸のあんな表情を羽衣子は初めて見た。いつだって、なにがあったって、自信たっぷりで俺様な洸はどこへ行ってしまったのだろう。
たかが羽衣子の反応ひとつで、あんなに切なそうな顔を見せるなんて思いもしなかった。
羽衣子は手の中に残された小さな箱のリボンをそっと解いた。外箱と同じ淡いブルーのリングケース。ゆっくりと蓋を開いて、指輪を取り出し薬指にはめてみる。プリュムの指輪を薬指にはめる。もう何度も繰り返してきたことだけど、今回ばかりはいつもとは重みが違う。この指輪は商品じゃない。洸が羽衣子のために
作って、贈ってくれたものなのだ。
プラチナの地金に羽をモチーフにした繊細なデザイン。小さなダイヤがぐるりと一周埋め込まれていて、真ん中だけサファイアをあしらってある。サファイアは羽衣子が一番好きな宝石だ。
洸の思いのすべてがつまった指輪。
「綺麗‥‥私なんかにはもったいないや」
傷つけてしまった。洸にあんな顔をさせてしまった。その事実が羽衣子の胸を締め付ける。あんな洸を見たかったわけじゃない。だけど、どうしていいかわからなかったのだ。
豪華エステなんて、とてもじゃないけど受ける気分にならない。普段の羽衣子なら大はしゃぎするであろう、最上階から見下ろす輝くばかりの夜景も、高級ブランドのアメニティも、キングサイズのふかふかのベッドも。なにひとつとして、羽衣子の心を浮上させてはくれない。
一生に一度の贅沢ではなく、一生に一度の盛大な無駄使いになってしまった。
せっかくのスイートルームだというのに、羽衣子はソファの端っこに座りこんだまま一歩も動けなかった。
気がつけば、日付が変わり朝を迎えていた。
どこまでも甘く、視線が交わるだけ。
羽衣子の心臓はまるで警告を発するかのように、ドクドクと大きく、早く、鳴り続けた。
「考えたことなかったんなら、考えて」
洸らしいストレートな要求。羽衣子は思わず顔を逸らしてしまった。洸のプロポーズが冗談じゃないことは、さすがの羽衣子でももうわかっている。この指輪も、さっきの言葉も、いま羽衣子を見つめる眼差しも、洸の本気がちゃんと伝わってくる。
だけど、考えたその先に待っている未来が羽衣子は怖かった。羽衣子がどんな結論を出したとしても、もう兄妹のような心地よい関係には戻れないのだ。すべてが変わってしまう‥‥。
羽衣子の逡巡を洸は敏感に察していた。
ふっと苦笑しながら、小さくつぶやいた。
「考えるのも無理‥‥か」
低く沈んだ洸の声に、羽衣子ははっと視線を戻す。洸の表情には色がなかった。ただただ、暗い目をして羽衣子を見ていた。
「まぁ、言いたいことは言ったから俺は帰るわ。一生に一度のスイート、満喫しろよ」
洸はくしゃりと羽衣子の頭を撫でると、振り返らずに部屋を出ていく。
扉が閉まるパタンという音がやけに大きく聞こえて、羽衣子はひとり取り残されたことを実感する。
「っ。なんで‥‥」
洸のあんな表情を羽衣子は初めて見た。いつだって、なにがあったって、自信たっぷりで俺様な洸はどこへ行ってしまったのだろう。
たかが羽衣子の反応ひとつで、あんなに切なそうな顔を見せるなんて思いもしなかった。
羽衣子は手の中に残された小さな箱のリボンをそっと解いた。外箱と同じ淡いブルーのリングケース。ゆっくりと蓋を開いて、指輪を取り出し薬指にはめてみる。プリュムの指輪を薬指にはめる。もう何度も繰り返してきたことだけど、今回ばかりはいつもとは重みが違う。この指輪は商品じゃない。洸が羽衣子のために
作って、贈ってくれたものなのだ。
プラチナの地金に羽をモチーフにした繊細なデザイン。小さなダイヤがぐるりと一周埋め込まれていて、真ん中だけサファイアをあしらってある。サファイアは羽衣子が一番好きな宝石だ。
洸の思いのすべてがつまった指輪。
「綺麗‥‥私なんかにはもったいないや」
傷つけてしまった。洸にあんな顔をさせてしまった。その事実が羽衣子の胸を締め付ける。あんな洸を見たかったわけじゃない。だけど、どうしていいかわからなかったのだ。
豪華エステなんて、とてもじゃないけど受ける気分にならない。普段の羽衣子なら大はしゃぎするであろう、最上階から見下ろす輝くばかりの夜景も、高級ブランドのアメニティも、キングサイズのふかふかのベッドも。なにひとつとして、羽衣子の心を浮上させてはくれない。
一生に一度の贅沢ではなく、一生に一度の盛大な無駄使いになってしまった。
せっかくのスイートルームだというのに、羽衣子はソファの端っこに座りこんだまま一歩も動けなかった。
気がつけば、日付が変わり朝を迎えていた。