俺様社長と結婚なんてお断りです!~約束までの溺愛攻防戦~
あと1ヶ月 ラストカウント
「ーーこ、羽衣子っ」

「えっ⁉︎」

「え⁉︎じゃねーよ。普通にしててもとろいんだから、ぼーっとしてんな」

いかにも洸らしい酷い言い草だけど、たった今、羽衣子がぼんやりしていたのは事実なので何も言い返すことができない。クリスマス向けの新作コレクションのDMを送る上顧客のリストを作成中だったはずが、いつの間にか意識がどこかへ飛んでいってしまっていた。改めてPC画面に目をやると、30分前からほとんど進んでいない。なにをやっているんだろうか‥‥自己嫌悪から思わずがくりとうなだれた。

「俺、Y社に打ち合わせ行ってその後はデザイナーのマーロウ氏と会食。今日は直帰するから。なにかあったら、携帯に連絡して」

そう言い残すと、洸は部屋を出ていった。ホテルでのプロポーズから一週間。洸はあの日のことなどまるでなかったかのように、表面上はいつも通りだった。相変わらず俺様で、人使いが荒くて、口が悪くて、なにも変わってない‥‥とはやっぱり言い切れないか。


必死にそう思い込もうとしていたけど、長い付き合いだもん。はっきりとは言い表せないけど、どこかが、なにかが、変わってしまった。たとえば、さっきだって、以前の洸ならもっと辛辣に羽衣子を注意していたような気がする。考え出すと、あれもこれもとこの一週間の洸の態度が思い出される。


「あ〜もうっ。ダメだ、ちっとも集中できない」

コンコンと社長室の扉がノックされ、羽衣子はそちらに目を向ける。細く開けられた扉から同じ秘書室の川上さんが顔を出した。社長のわがままであやうくクビになりかけた川上さんだけど、羽衣子がなんとか説得し今も秘書室にいる。
今日も変わらずモデルのように美しい。

「すみません、茅野チーフいらっしゃいます?」

「はい。います、います!どうぞ」

羽衣子は慌てて立ち上がった。

「失礼しまーす。やっぱりこっちだったんですね」

この社長室の隣の秘書室にも一応、羽衣子の席はあるのだが洸が社にいるときは雑用係として社長室のデスクで仕事をするのが常だった。

「この営業会議のスケジュールなんですけど‥‥」

川上さんは資料を手に話をはじめる。なにかと羽衣子にはあたりのきつい秘書室メンバーの中で川上さんはかなり羽衣子に優しい方だった。おそらく、女としての格が違い過ぎてライバルとも認識されていないんだろう。
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