俺様社長と結婚なんてお断りです!~約束までの溺愛攻防戦~
あと3ヶ月 遠すぎる約束
まだまだ夏の気配が色濃く残る九月上旬。茅野羽衣子は社長室の一角にある自分のデスクで、大量に届く社長宛てのメールの整理に四苦八苦していた。
「羽衣子」
「・・・」
「おいっ、羽衣子」
「勤務時間中は苗字で呼んで下さい、永瀬社長」
羽衣子は作業中のPC画面を見つめたまま、毅然と言い放った。
つもりだったのだけど、この男にはちっとも通用しなかった。
「面倒くさっ。 羽衣子の癖に口答えすんな。つーか、クソ忙しい俺の貴重な時間を無駄にすんな」
それを言われてしまったら何も言い返せない。羽衣子は渋々、返事をする。
「ふぅ。今度は何ですか?」
「最近、秘書室に来た女いるだろ」
「えっと、川上さんのこと?」
先月付けで秘書室配属になった川上さんはモデル顔負けの美女だ。
「あれ、適当な理由付けて店舗に戻しとけ。 仕事ができなさすぎて、邪魔だ」
勿体無いなぁと羽衣子は心の中で呟く。
艶のある黒髪、キメの整った白い肌、切れ長で涼しげな目元に形の良い薄い唇。
どこから見ても、完璧に美しい。
おまけに長身で小顔。
黙ってさえいれば、まるで王子様のようなのに。
口の悪さと態度のでかさで台無しだ。
「洸ちゃんがメディア対応用にとびきりの美人を秘書にしろって言うから、来てもらったんじゃない。
それに、川上さんは店舗でも成績残してるし仕事できると思うんだけど・・」
思わず秘書室チーフの立場を忘れ、羽衣子も素に戻ってしまう。
それくらい無茶苦茶な要望だと思う。
異動後数週間でまた異動なんて、普通ありえないだろう。
「全然、出来てない。アポは時間を空けずに詰めろって言ってんのに、毎回毎回必ず1〜2時間空くんだよ」
「あぁ。それは多分、洸ちゃんとお茶したりゆっくり話をする時間を作りたかったんじゃないかな!
仕事できない訳じゃないから、大丈夫」
洸には内緒だが、他の子もよく使っている手だ。川上さんは露骨にやり過ぎたんだろう。