俺様社長と結婚なんてお断りです!~約束までの溺愛攻防戦~
そうだ、そうだ。いいことづくめじゃないか。羽衣子は羽衣子らしく平凡な毎日を送り、洸は海外で洸らしい華やかな生活をする。洸はきっと成功をおさめるし、いつか素敵な女性を奥さんに迎えるだろう。羽衣子は羽衣子で堅実な相手を頑張って探せばいいのだ。まだ焦る年齢でもない。

それなのに、なんで涙が出るんだろう。どうして止まらないのだろう。

洸の長い指が羽衣子の頬をそっと拭う。

「好きになった?俺のこと」

見たことないくらい優しい顔で洸が微笑む。

「なってない‥‥。洸ちゃんは自意識過剰すぎっ」

「嘘つけ。お前は結構前から俺のこと好きだよ。自覚してないだけで」

「なんの根拠があって‥‥」

「お前だって、根拠もなく俺なら大丈夫ってずっと言い続けてきたじゃん。けど、それ正解だったし。だから、これも正解」

「意味わかんない、そんな理屈‥‥」

全然、まったく、意味がわからない。ストーカーなみに危ない理由付けだよ、洸ちゃん。

そう言おうとしたけど、言葉が出なかった。洸がふわりと羽衣子を抱き締めたから。それは甘くて、優しくて、羽衣子の心をじんわりと溶かしていく。

懐かしくて、心地よくて、ずっとこのままでいたいような‥‥。

「だって。私と洸ちゃん、ちっとも釣り合わないよ。洸ちゃんならもっともっと素敵な、あのリー・マーロウみたいな人と結婚できるよ」

だから無意識に恋愛対象から洸を外した。好きにならないようにって線をひいた。だって‥‥洸の魅力を本当はいっぱい知っている。顔とか社長だからとかそんなんじゃない。表現は下手だけど社員思いなところ、商品ひとつひとつにきちんと愛情をかけているところ、実はお父さんには敵わないってコンプレックスを持っているところ、人に厳しいけど自分にはもっと厳しいところ、いつだって羽衣子を支えてくれているところ。
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