イジワル御曹司と花嫁契約
 明日もお母さんに会える。


それが、当たり前のことではないことを痛感して、命の重さを学んだ。


 そして、先生がいなくなると廊下にまた静けさが戻ってきた。


彰貴はスマホを見ると、軽くため息を吐いた。


「すまん、もう行かないと」


「ううん、ありがとう。ごめんね、大切な会議の途中だったんでしょ?」


「お前以上に大切なものなんてないよ」


 彰貴は私の顔が真っ赤になるようなせりふを言って、照れている私を見て微笑んだ。


「仕事が終わったら、また会いにいく」


「本当? 嬉しい、待ってる」


 なぜか、自然に素直になれた。


嬉しい、待ってる、なんて普段はそう思っても口に出すことはできなかったのに。


もう、好きな気持ちを隠すことなんてできない。


 彰貴の顔が近付き、口付けを落とした。


私は自然にそれを受け入れる。


唇が離れて名残惜しい空気が流れ、それを振り切るように「じゃあ、また」と言って彰貴は私に背中を向けて歩き出した。
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