イジワル御曹司と花嫁契約
「朝ごはんいる？」


「いや、時間がない」


　忙しいんだなと、よれよれになってしまったワイシャツに袖を通している彰貴の背中を見て思った。


そうだ、私もお店に行かなくちゃ。仕込みをしたり、帳簿をつけたり、それが終わったら病院に行って……。


やることはいっぱいある。


寂しさを感じている場合じゃない。


　いそいそと着替えを済ませ、頭のスイッチを切り替える。


彰貴も、スーツに着替え終わって頃には、いつもの鋭い眼差しに戻っていた。


「今夜も帰ってくるから」


　仕事モードになりつつも、私に向ける声色は優しくて、それが独特の色気を醸し出している。


帰ってくるから。


彰貴の中では、もうここが帰る場所だと当然のように認識しているのが照れくさくもあり、嬉しくもあり、そして何より安心した。


もう一人じゃない。


「……うん」


　小さく頷く。


二人の間には、昨日まではなかった親密な空気が出来上がっていると肌で感じた。


友達でもない、親友でもない、家族に少し似た、それよりも甘い親密性。
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