イジワル御曹司と花嫁契約
 こんなに心配してくれる人がいる。


私はとても恵まれているなと思った。


私は、幸せ者だ。


お昼のピークを過ぎてお店が静かになったことを見届け、後のことは萩原さん夫婦に任せて急いで病院に向かった。


 店の最寄り駅から電車で二駅、駅徒歩三分ほどの一等地に東郷病院はある。


まるでホテルのロビーのような雰囲気のエントランス受付には、黒のスーツを着たコンシェルジュと呼ばれる受付嬢が三人立っている。


 一階は外来専用となっており、二階がリハビリ病棟、そして三階から五階までが入院病棟だ。


高級感漂うエレベーターに乗り込み、五階のボタンを押す。


 フロントで名前を記入し、見舞い客用のストラップとカードキーを受け取った。


そしてフロント右側の高級個室専用エリアへと歩を進める。


 名前札も何もないドアにカードキーをかざし、音を立てないように中に入ると案の定、母は寝ていた。


小さな寝息を立てて、胸が上下に揺れていることに、幸せな安心感をおぼえる。


 今日も生きている。


当たり前なことのようにも、奇跡的なことのようにも思える。
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