イジワル御曹司と花嫁契約
それが不思議なことに孤独を感じなくなっていた。


きっと空洞は今もあって、それは生涯消えることも埋められることもないのだろうけれど、厚い蓋で閉められたような安心感があった。


空洞は消えなくても、蓋があれば何も落ちることはない。


忘れてしまえば、それはないも同然になる。


 愛する人ができるということは、こんなにも心の安定に繋がるものなのかと驚いた。


ただ愛している、それだけで心は満たされる。



 二十一時を過ぎた頃、今から帰るという電話の二十分後に玄関のチャイムが鳴った。


高鳴る胸を抑えてドアを開けると、いつも通りスーツ姿の彰貴がいた。


「ただいま」


「……お、おかえり」


 なんだこれは。


凄く恥ずかしい。


まるで新婚さんごっこ。


 赤面してしまって、顔が上げられずにいる私の横を当然のように通り過ぎ、部屋の隅に高級ブランドのロゴが施されている大きなボストンバッグを置いた。


「何入ってるの?」


 興味深げにボストンバッグを見る私。
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