イジワル御曹司と花嫁契約
 ……一番高いもの。


まあ、なんてシンプル。


選ぶ必要ないってことね。


 私は苦笑いで返事をかえした。


大きなため息を吐きながら車から出る。


 私はいつも一番安いものを選んでいるっつーの。


心の中で毒づきながら店内に入ると、アロマの上品な香りに包まれた。


 わあ、いい匂い。


上品な店内は私が知っている店とは空気も雰囲気もまるで違っていて、まるで異世界に入り込んだようだった。


 店内のスタッフは皆、光沢のあるスーツを着ていて、お客さんはブランドバッグを持ったマダムやプロのバイヤー風のカジュアルスーツを着た人など、私のお店がある商店街のお客さんとは全く違う。


明らかに場違いな空気を感じて萎縮する。


 は、早く買い物済ませてさっさと帰ろう。


 こそこそとなるべく存在を消して店内を歩く。


ファストファッションに身を包んだ若い女が、いきなりブラックカードで支払いをしたら、彼らはどんなに驚くだろう。


 通報されないといいけど。


冗談として心の中で浮かんだ言葉だったけれど、冗談にならなかったらどうしようと少しだけ焦る。


それくらい、私は浮いていた。
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