イジワル御曹司と花嫁契約
「うん、大丈夫。もう覚悟はできたから」


 女に二言はない。というより、私に二言はない。


 八重木さんはほっとしたように微笑み、すぐに電話を掛けた。


お店に連れて行ったけど、何も買わなかったことを伝え、そして彰貴の家に住むと言ったことを簡潔に説明する八重木さん。


その後はかしこまりました、と言って電話を切った。


数分もかかっていなかったと思う。


「これからすぐに彰貴様の家に行くように、とのご指示です」


「え、今から?」


「必要なものは全てこちらで揃える、とのことです」


「いやいや、さすがに洋服類は持って行かせて」


 八重木さんは二秒ほど考え込んだ。


「……いいでしょう。あいつの気が変わらないうちに一刻も早く連れて行けとのご指示でしたが、このことによって行くことを躊躇われたら本末転倒ですし」


 彰貴もか! なんで私がすぐ気が変わる前提なの。


頑固だから自分の生活は変えたくないって頑なに押し通すと思われてるのかな。


それからすぐに自分の家に戻って、下着や洋服類をバッグに詰め込んで、再びリムジンに乗り込んだ。


すぐに車は発車する。


これから彰貴の家に行くんだ。


どんなところなんだろう……。


外の景色を眺めながら、胸がドキドキしてくるのを感じた。


緊張と不安、よりもワクワクの方が強い。


いったん覚悟を決めたらどんなところでも楽しめる図太さがある。


知らずに口元が微笑んでいた。

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