イジワル御曹司と花嫁契約
「いえ、大丈夫です」


「そう言わずに。もう用意してくれているのだから」


「じゃ、じゃあ、ウーロン茶を」


 運転手は小さく頷くと、グラスにウーロン茶を注ぎ、私の前に置いた。


そして一礼して出て行くと運転席に座り、静かに発車させた。


「すみません、いただきます」


 と言って、ゴクリとウーロン茶を飲んだ。


緊張で喉が引っ付きそうなくらいカラカラだった。


「ああ、そうだった。自己紹介が遅れたね。私は東郷和彰(とうごうかずあき)、東郷財閥の社長であり、彰貴の父親でもある」


 そう言って彼は、一枚の名刺を私に渡した。


 彰貴の父親、と言われても私は一切驚かなかった。


この人を以前から知っていたわけではない。


もちろん初対面だし、メディアか何かで顔を知っていたわけでもない。


 でも、一目見た瞬間に、ああ、この人が彰貴のお父さんかと思った。


雰囲気や顔の作りが彰貴にそっくりだった。


だから私はこの車に乗った。


そして、これから言われるであろうことも何となく予想はついている。
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