イジワル御曹司と花嫁契約
「神様……神様……」


 縋るように必死の想いで口にする。


私の声は聞こえてますか?


 神様、どうか母を助けてください。


そのためなら私、何でもしますから。


神様……。




「おい、見つけたぞ、冴木胡桃!」


 突然後ろから自分の名前を呼ばれて、重い頭を動かして後ろを見る。


するとそこには、二メートル程の距離に、黒のリムジンの隣に悠然と佇む長身の男がいた。


 端正な顔立ちの男は、切れ長の瞳を輝かせ、口元にはニヤリと微笑をたたえている。


「あんたは……」


 目を見開いて男を見つめ返す。


東郷財閥の御曹司、東郷彰貴。


 私の名前、教えなかったはずなのにどうして……。


 頬に伝っていた涙を豪快に手の平で拭って、睨み付ける。


「何の用?」


 背筋を伸ばして必死に虚勢を張る。


「忘れ物を届けに来てやったぞ」


 ……忘れ物?あっ、ハイヒール!


「ああ、それはわざわざどうも」


 男の元に歩み寄る。


手を出して受け取ろうとすると、彼は両手を組んだまま私を見下ろした。


「返すのは話が済んでからだ」


「話?」


「そうだ、とりあえず車に乗れ」
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