イジワル御曹司と花嫁契約
「それで、話って?

……ああ、ちょっと待って、その前にどうして私の名前知ってるの?」


「チケットに名前と住所、それと紹介者名を書く欄があっただろ。そこが空欄だったのはお前だけだった」


 嘘……たったそれだけで。


ということは、住所も知られているということだ。


厄介そうな人物に知られてしまった……。


「……まあ、理由は分かった。それで、私に話って何?

最初に言っておくけど、婚約者のふりを続けろっていうなら話は聞かないからね」


「察しがいいな。その通りだ」


 この野郎、悪びれもせず、しゃあしゃあと。


「帰る!」と言って、スクッと立ち上がった私に、彼は慌てた様子で声を投げた。


「待て!……金に困ってるんだろ?」


 ドキリとする言葉に、立ち上がったまま固まった。


背筋が凍る。


どうして、それを……。


 恐る恐る振り返ると、彼はまるで異界からやってきた悪魔のように、底意地の悪い不気味な笑みを浮かべていた。


「お前のことは調べさせてもらった。

たった一人の肉親である母親が入院していること。

そしてその母親の病はとても厄介で、治療に難航していることも」


「なっ……!あんた、よくも勝手に人のプライベートを!」
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