イジワル御曹司と花嫁契約
 怒りで目が眩んだ。


私のことならまだしも、お母さんのことまで調べるなんて!


 今にも殴りかかりそうな私を、腰掛けたまま冷静な顔付きで見上げている。


「悪いが、病気のことも踏み込んで調べさせてもらった。

脊椎がんだってな。しかも原発性の。

特殊なケースで治療が難しい。化学療法も上手くいってないらしいな」


「どうしてそこまで……」


 怒りを越えて恐ろしくなってきた。


患者の情報がどうして部外者に漏れるのだろう。


この男は一体……。


「東郷財閥の関連企業は、銀行、保険、不動産、病院など多岐に渡っている。これくらいのこと調べるのはわけない」


 なんて恐ろしい。


この男はただのお金持ちなんかじゃない、絶大な権力を持っていることが想像できた。


 そして彼は表情一つ変えず、じっと私を見上げたまま話を続けた。


「あまりに不運……と言いたいところだが、たった一つだけ助かる方法がある。

先進医療の腫瘍脊椎骨全摘出手術だ」


「っ……!」


 驚きと共に、なぜか涙が込み上げてきた。


さっき聞いたばかりのことを、この男が知っていることに呆然とする。
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