イジワル御曹司と花嫁契約
 チラリと横目で見ると、彰貴はそわそわと時間を気にしていた。


「私もう出れるよ」


「ごめんな、慌ただしくて」


 急に優しくなった気がして面食らった。


首をぶんぶん振って、全く問題ないということを仕草で伝える。


昨日の今日なのに何もない顔をされて、でも態度は優しくて、そんな風にされたら胸がドキドキしてしまって何て言っていいか分からなくなる。


 彰貴の後ろに続いて部屋を出て、エレベーターに乗り込んだ。


スーツ姿の彰貴は、昨日よりも大人っぽく見えて、ただ隣に立っているだけで胸が苦しくなる。


心臓が、壊れたみたいに大きく鳴っている。


もの凄く意識してしまって、気軽に話しかけることもできない。


 ホテルのエントランスを出ると、一台のリムジンが止まっていた。


 その前にスーツ姿に白い手袋をはめた長身の男が背筋を伸ばして立っていた。


体つきは細身で女顔、髪の毛が少し長めなので、一見遠くから見るとホストのように見える。


 彼は彰貴に気付くと恭しく礼をし、後部座席のドアを開けた。


近くで見ると雰囲気がとても落ち着いていて大人の風格を感じさせる。


顔だけ見れば三十代前半のように見えるけれど、醸し出す雰囲気は四十代のようにも感じる。


イケメンすぎて年齢不詳。美容師やアパレル業界にいそうな人が、どうして運転手に? と思ってついついジロジロ見てしまった。
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