イジワル御曹司と花嫁契約
さらに胸の高まりが増して、心臓が大きな太鼓で叩いているような音を奏でる。


 やめてよって言って、手を解いてしまえばいいのに、どうしてだかそれができない。


繋がれた手が熱くなる。この上昇する体温は、私のなのか、それとも……。


 顔を背けたまま、無言の時間は過ぎていく。


気まずいけれど、嫌な緊張感ではない。


そのまま手を繋ぎ続け、ふと気が付くと、見上げるほどに大きなガラス張りのオフィスビルの前に到着した。


 自動でドアが開くと、彰貴は名残惜しそうにゆっくりと私の手を離した。


「家まで送ってやれなくてごめんな」


「いいよ、そんなの」


「またな」


「うん……」


 気恥ずかしくて、彰貴の顔がまともに見れなかった。


 颯爽と去っていく姿が、仕事ができる男というかんじで、大人っぽくて、かっこよくて……なんだか胸が苦しくなった。


 トクトクトク……と甘い疼きに似たときめきの音が聞こえる。


さっきまで隣に座っていた彼は、後ろを一度も振り向かずに行ってしまった。


 空に向かって伸びているような堂々とした佇まいの高層ビルに、彰貴は吸い込まれるように入っていく。


……ここが彼の居場所。


将来、何千、何百万もの従業員のトップに従事る男。


私とは住む世界が違う人。


 胸が針で刺されたようにズキンと痛んだ。
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