イジワル御曹司と花嫁契約
「あんなに楽しそうな彰貴様を見たのも、初めてです」


 運転手の顔は見えないけれど、声は温かく嬉しさが滲み出ていた。


 ……楽しそう、だったのかな? 私にはよくわからないけど。


「いやあ、ははっ」


 と照れくさそうに笑いながら返すと、運転手はさらに言葉を続けた。


「私は、彰貴様が小学生の頃から運転手をしていますが、彰貴様は誰にも本当の笑顔を向けられたことはないのです。口元に笑みは浮かべますが、目はいつも死んだように凍り付いていました」


 小学生の頃からって……運転手さん、若く見えるけど結構歳いってるのかな?


「誰にも?」


「ええ、お友達にも、ご両親にも」


 運転手は淡々と、とても悲しい事実を告げた。


「え……意地悪な笑顔もですか?」


 あまりにも告げられた真実が重すぎて、すぐには信じられなかった。


私は出会った時から彰貴の笑う顔は見ていたから、にわかには信じられなかった。


「意地悪な笑顔ですか……。いいですね、見てみたいです」


 運転手が微笑ましそうに言うので、彰貴が心から笑ったことがないという真実味が増した。


 笑わずに育ったって……どんな環境だったの?


 確かに彰貴はいつも仏頂面で、怖い顔していて、近寄り難いけど、私にはいつも子憎たらしいくらい開けっ広げに接してくる。


だから私も自然体でいられて、一緒にいると楽しくて、気付いたらいつも笑っていて……。
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