壊れるほど抱きしめて



「坂木くんって、今は彼女は居ないんだよね?」


「……」


「今は居ないのかな?じゃあ昔は居たの?」


何となく話をしてみた。


「あんたに関係ないだろ!」


少し強い口調で言われてしまい体がビクッとなってしまった。


「ご、ごめんね。関係ないよね」


詮索するつもりは無かったけど、こんな話をしたのが間違いだった。


それから無言のまま会社に着き、私は車を降りて自分のロッカーに向った。


休日出勤の人も居るから、工場は開いているし、警備員の人も居るから工場自体が休みでも、理由を話せば中に入れる。


ロッカーを開けると鍵があり、私は鍵を鞄に入れると急いで坂木くんの車に戻った。


「お待たせ」


そう言って車に乗ると、坂木くんは無言のまま車をゆっくりと走らせた。


普段と何も変らない坂木くんだけど、昨夜のあの苦しそうな表情が頭に浮かぶ。


父の死を乗り越えたと思ったら、大好きな姉までも亡くなってしまったからかもしれないけど、坂木くんの苦しそうな表情がまるで昔の私みたいに感じた。


私は月日が流れる毎に立ち直ったけど、会社に入社した時から坂木くんの笑顔は一度も見たことがない。


小さい頃から笑わなかったわけじゃないと思う。


何が彼をそうさせたのかはわからないけど"かおり"と言う女性が関係しているのかもしれない。


さっきの強い口調で私はそう確信した。


私が彼を笑顔にしてあげられたら……。


そう思うけど坂木くんにとっては迷惑でしかないよね。


そんな事を思っているとアパートに着き、私達は車を降りた。


「昨夜は泊めてもらって、会社まで連れて行ってくれてありがとう」


「……別に」


やっぱり彼は『別に』といつもの口調で言って、先に一人でアパートまで歩いて行く。




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