壊れるほど抱きしめて



胸がドキドキして、昨夜の事が頭を過るーーー


「あんた、その煩い口、どうにかならないのか?人を詮索するような事は止めろ!」


強い口調で言われてしまい我に返る。


詮索するつもりはなかったけど、酔った事でつい、聞いてしまった。


「ごめん。私、坂木くんに笑って欲しくて。
坂木くんの苦しそうな顔を見るとーー」


「俺は苦しそうな顔なんて……」


そう言って坂木くんは黙る。


「話したくないなら話さなくてもいい。人には話したくない辛い過去があるかもしれない。
私ね、父と姉を交通事故で亡くしてるの……」


「……」


少し驚いた表情をした坂木くんは私の顔を見つめたが、何も言わずに俯いた。


「父は私が小学生の時、仕事帰りに車を運転してる時に、脇見運転をしていたトラックがお父さんの車に衝突しちゃって、そのまま意識は戻らなかった」


坂木くんは俯いたままだけど、少し体がピクリとなったのがわかった。


「姉は高校三年の時に、信号を渡っていたら、居眠り運転の車が姉に衝突して亡くなったの」


「もういい!」


「坂木…くん」


「もうそれ以上、言わなくていい」


少し震えながら坂木くんは言った。


その表情は何処か苦しげだった。


「ねぇ坂木くん……」


そう言って私は坂木くんの頬に手をあてた。


「いつか、笑えるといいね」


「……」


すると坂木くんは私を押し倒してきた。


「俺に深入りするな!」


「でも私はっ」


「言っとくけど、一回寝たくらいであんたにそんな事を言われる筋合いはない。もう、俺に関わるな!」


そう言って坂木くんは私から離れて立ち上がり、帰ろうとした。




< 13 / 72 >

この作品をシェア

pagetop