壊れるほど抱きしめて
胸がドキドキして、昨夜の事が頭を過るーーー
「あんた、その煩い口、どうにかならないのか?人を詮索するような事は止めろ!」
強い口調で言われてしまい我に返る。
詮索するつもりはなかったけど、酔った事でつい、聞いてしまった。
「ごめん。私、坂木くんに笑って欲しくて。
坂木くんの苦しそうな顔を見るとーー」
「俺は苦しそうな顔なんて……」
そう言って坂木くんは黙る。
「話したくないなら話さなくてもいい。人には話したくない辛い過去があるかもしれない。
私ね、父と姉を交通事故で亡くしてるの……」
「……」
少し驚いた表情をした坂木くんは私の顔を見つめたが、何も言わずに俯いた。
「父は私が小学生の時、仕事帰りに車を運転してる時に、脇見運転をしていたトラックがお父さんの車に衝突しちゃって、そのまま意識は戻らなかった」
坂木くんは俯いたままだけど、少し体がピクリとなったのがわかった。
「姉は高校三年の時に、信号を渡っていたら、居眠り運転の車が姉に衝突して亡くなったの」
「もういい!」
「坂木…くん」
「もうそれ以上、言わなくていい」
少し震えながら坂木くんは言った。
その表情は何処か苦しげだった。
「ねぇ坂木くん……」
そう言って私は坂木くんの頬に手をあてた。
「いつか、笑えるといいね」
「……」
すると坂木くんは私を押し倒してきた。
「俺に深入りするな!」
「でも私はっ」
「言っとくけど、一回寝たくらいであんたにそんな事を言われる筋合いはない。もう、俺に関わるな!」
そう言って坂木くんは私から離れて立ち上がり、帰ろうとした。