壊れるほど抱きしめて
「坂木くんって……優しいんだね?」
「……」
私の問い掛けには無言のままだが、歩くペースは変わらない。
「私の歩くペースに合わせてくれてありがとう」
「……別に」
たったそれだけだけど、会話が出来た事が嬉しかった。
あまり喋らないし、お隣さんだけど顔も会わせない。
だが今日は酔っているからいつもより話せそうな気がする。
「坂木くんって普段はあまり喋らないけど、人と話すの苦手?私は仲良くなった人とは喋れるんだけど人見知りだし、内気な性格たからサービス業とかには向いてなくて……。高校生の頃にバイトで、接客が出来なくてクビになったりしたからさ。だからあまり表に出る仕事は自分には合ってなくて、工場に就職が決まった時は嬉しかったんだっ、うわぁ!」
「危ねっ!」
私は歩きながら一人でベラベラと喋っていたら、足が縺れて転びそうになった。
その瞬間に坂木くんが私の体を支えてくれた。
「あんた、一人で喋ってないでしっかり歩けよ」
そう言われてしまい私は謝るしか出来なかった。
「ご、ごめんなさい……」
そう言ってアパートに着くまで一言も話さず、私のペースに合わせて歩いてくれた。