壊れるほど抱きしめて
「おばさん……。私に出来るかわからないけど、聖と話をしてみます」
「ありがとう」
おばさんは私の手を握って言った。
一度自分の家に入り、鞄を置いて聖の家に向った。
聖の家の中に入るのは、もう何年ぶりだろう。
おばさんに声をかけて、私は二階にある聖の部屋に向った。
聖の部屋の前に着いて、私は深く深呼吸をした。
ーーートントン
「聖、私だけど居る?」
そう私が言った瞬間だったーーー
「由利っ」
そう言いながら扉を開けた聖は、私を抱きしめてキスをした。
私の声は姉と似ている為、聖は姉と勘違いしたのか、顔を見るなり私を抱きしめてキスをしたのは、私を姉だと思い込んでいたからだろう。
驚いてしまった私だったが、抵抗はしなかった。
聖は唇を離すとーーー
「会いたかった由利。もう俺の側から居なくならないでくれ」
私をギュッと抱きしめるとそう言った。
聖の言葉に胸が苦しくなる。
聖の姉を想う気持が、痛いほど伝わってくるから。
それに聖の目には、姉しか写っていないんだ。
「聖、私はお姉ちゃんじゃなくて小春だよ」
そう言うと、私の顔をよく見て、姉じゃないとわかり、聖は抱きしめていた腕を離すと、私から遠ざかるようにベッドに座った。
おばさんが言っていたように、聖は魂が抜けたように、気力も失われていた。
髪の毛はボサボサで、無精髭も生えている。
姉が亡くなる前の姿とは比べ物にならないくらいに……。
「聖、元気だった?」
「……」
私の問い掛けに返事もせず、じっと床を見つめたままだった。
「私ね、小さい時からお姉ちゃんが、ずっと羨ましかった。聖に愛されて、何でお姉ちゃんなの?って何度も思ってた。私ね、聖がずっと好きだった」
私がそう言うと、聖は顔を上げて私を見た。
「でも、お姉ちゃんと付き合いだして、私はちゃんと聖を諦めたし、今は好きって感情はないよ。それにお姉ちゃんは、いつも幸せそうに笑っていたし、私もお姉ちゃんには幸せになって欲しかったから」
姉の話をすると、聖はまた下を向いた。
「ねぇ聖、お姉ちゃんはもう……居ないんだよ」
「由利は生きている!」
怒りをぶつけるかのような口調で聖は私に言うと、苦しそうな表情で私を見た。