壊れるほど抱きしめて



暫くすると聖は落ち着き、少しの間、黙ったまま俯いていた。


「俺さ、由利は死んでなんかいないって、認めたくなかった。学校から帰って来た由利が「聖」って俺の名前を呼んで、笑顔で部屋に入ってきて「寂しかった?」って悪戯っぽく言って俺を抱きしめる夢を何度も見た。だから俺は、いつ由利が来てもいいように部屋からあまり出なくなったんだ。だから今日、小春が来た時はやっと由利が来たんだと思って俺は嬉しくて……」


聖はずっと姉が来るのを待って居たんだと思うと、胸が苦しくなる。


「小春に言われて現実を受け入れなきゃと思うと、悲しくて、今まで閉じ込めていた感情が一気に溢れだした。
俺、お墓参りに行って、由利に会いに行くよーー」


やっと聖は前に進む事が出来たみたいで、姉に会いに行くと言った聖の表情は、先ほどと違い、気力が戻っていた。


「お姉ちゃん、聖が来るのを待ってるよ」


私は聖に笑顔で言った。


「だけど、まずは髪の毛を切って、髭も剃らなきゃお姉ちゃん、聖が嫌いになるかもよ?」


「だな。由利の前ではいつだって、格好良くいたいからな。小春……ありがとう」


そう言って聖は笑顔で言ったーー


だからかな、坂木くんを見てると苦しそうな表情が、姉を亡くした時の聖に少し似ている。


坂木くんの過去に何があったかなんて知らないけど、わかることは、聖が姉を愛していたように、坂木くんもかおりさんを愛していたって事だ。





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