壊れるほど抱きしめて



夜になり、夕食を食べる為にカレーを温めていた。


聖の事を思い出してからなのか、坂木くんを想えば想うほど、苦しくもなる。


聖が私を通して姉と重ねてキスしたように、坂木くんもきっと、私を通してかおりさんと重ねてキスをしたんだと。


初めてキスをしたあの夜。
私は彼のキスに溺れた。
苦しそうな表情の裏側に何が隠されているの?


例え彼がかおりさんと私を重ねてキスをしたとしても、私はあの時、彼が欲しくてたまらなかった。


事故だと思う事にしたかったけど、唇が、体が、彼を求めて、その苦しみさえも愛しくてーー


私はカレーの鍋の火を止めた。


今すぐ坂木くんに会いたくて、私は二人分のお皿にご飯を盛ると、カレーをその上にかけた。
お盆にお皿を乗せて、スプーンも一緒に入れた。
私はそれを持って坂木くんの部屋の前に向った。


ーーーピンポーン


坂木くんの部屋のインターフォンを鳴らした。


少しして扉が開く。


「カレー、一緒に食べよう」


そう言って私は、開かれた扉の間に入り込むと、靴を脱いで中に入った。


坂木くんに断られる前に中に入った私は、テーブルに向い、カレーの入ったお皿を置く。


「あんた、何がしたいんだ」


「何って、一緒にカレー食べたくて。それにまだ食べてないでしょ?」


そう言うと坂木くんは、何を言っても私が帰らないと思ったのか何も言わなかった。


「一緒に食べよう」


そう言うと坂木くんは、冷蔵庫からミネラルウォーターを二本取り出してテーブルに座ると、私の前にミネラルウォーターを置いた。


「ありがとう」


「……」


「いただきます」


私が食べ始めると、坂木くんも食べ始めた。



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