壊れるほど抱きしめて
私はキッチンを離れて洗濯物を取り込んだ。
坂木くんは本を読んでいたみたいだけど、そのまま眠っている。
寝顔は今も昔も同じだけど、目覚めると昔みたいに笑わなくて、自分の殻に閉じこもった坂木くんになる。
坂木くんの笑顔を見てしまったからこそ、苦しくなる。
こんなにも近くに居るのに、遠い存在。
それでも側に居たくて、彼をいつか笑顔にしてあげたい。
心の中でそう思い、布団をキレイにして、洗濯物を畳んだ。
その後はお風呂掃除をして、お湯を溜めた。
そうこうしていると、辺は暗くなり、私は坂木くんを起こした。
「坂木くん。もうすぐご飯だよ」
まだ眠いのか、坂木くんは目を擦りながら起きた。
「準備するから待っててね」
そう言ってキッチンに向かい、冷蔵庫から餃子を取り出して焼いた。
他のおかずは温めてお皿にいれ、出来上がるとテーブルに運んだ。
「お待たせ。ちょっと作り過ぎちゃった」
「……」
相変わらず、何も言わない坂木くん。
私は『いただきます』と言って箸を掴むと、坂木くんも箸を掴み、餃子をお皿に入れて食べだした。
きっと残ってしまうと思っていたけど、坂木くんは全部キレイに食べてくれた。
作り過ぎたし、お腹一杯の筈なのに何も言わずにキレイに食べてくれて、それも坂木くんの優しさなのかもしれない。
こんなにも優しいのに、坂木くんの顔から笑顔が見れないのはやっぱり悲しくなる。
「全部食べてくれてありがとう。お風呂も沸いてるから後で入ってね?私は洗い物したら帰るから」
「……」
相変わらず返事もなく、私だけが喋ってる。
それでも側に居られるならいい。
私は食器を洗うためにキッチンへ行った。
必要な物は買ってきたから、坂木くんの食器棚にも私の茶碗やお皿なんかも増えた。
フライパンやお鍋も買って正解だったな。