壊れるほど抱きしめて



片付け終わると、私は坂木くんの所へ行った。


「じゃあ私は帰るね」


「……」


私とは目も合わせずに雑誌を見てる坂木くんは相変わらず無言だ。
写真の中の坂木くんは、笑顔で、口数だって少なくなかったと思う。
自分の殻に閉じこもってしまった彼を救えたら一番いいのだけれど……。


私は鞄を持って坂木くんに言った。


「じゃあ明日もまた来るね。おやすみ」


そう言って玄関に向かおうとした時だった。


「明日も来るなら泊まれば」


私は振り返り坂木くんを見た。
まさか『泊まれば?』なんて言うと思わなかったから、少し驚いてしまい言葉が直ぐには出なかった。


「あんたが帰りたかったら帰って構わないけど」


相変わらずいつもと変わらない無愛想な顔で言われた。


「と、泊まります。だけど着替えないから一度、自分の部屋に戻って持ってくるね」


そう言って、坂木くんの部屋を出ると自分の部屋に帰った。


坂木くんと何も話さなくても、側に居られる事が何より嬉しかった。


私は着替えの準備をして、必要な物を鞄に詰めると坂木くんの部屋に戻った。


部屋の中に入ると坂木くんの姿がなくて、浴室の明かりが付いてたからお風呂に入ってるみたいだ。


私は持って来た荷物を床に置いた。


テーブルの前に座わり、明日は坂木くんを誘って外に出てみようかな?
坂木くんは休みの日、ご飯を買いに行ったり、食べに行く時くらいしか家から出てなくて、それ以外は部屋から出ない。


気分転換に外出すれば、もしかすると坂木くんの笑顔が見れるかもしれないと考えた私は、坂木くんかお風呂から上がったら、明日は出掛けようと誘ってみよう。





< 34 / 72 >

この作品をシェア

pagetop