壊れるほど抱きしめて



その後は無言で二人でテレビを見ていた。


私は途中で立ち上がり、キッチンに向った。


お米を研いで、炊飯器にセットした。
何だか本当に同棲でもしているみたいに感じる。


私が坂木くんの所に戻ると、もうテレビの電源を切ったのか、画面は消えていた。


「そろそろ寝る?」


「……」


坂木くんは何も言わずに立ち上がり、洗面台に向った。
私も坂木くんの後を追い、一緒に向う。


二人で歯磨きをして部屋に戻る。


部屋の電気を暗くして、坂木くんはベッドの奥に寝た。


前みたいに下で寝ると言わないのは、一緒に寝てもいいって事だよね?


私も坂木くんの隣に横になった。


抱かれなくてもこうして隣に居られるだけで嬉しくなる。
そう思ってるのは私だけだけど。


二人でベッドに寝て一時間くらい経った。
坂木くんは寝ていて寝息が聞こえる。
眠れない私は坂木くんの方を向き、彼の寝顔を見つめた。
そして彼の頭をそっと撫で、その手を頬に当てた。


するとーーー


「…かおりっ、どうして」


起きてはいないけど、とても苦しそうな口調でそう言った坂木くんの目から、涙が流れた。
私はそっと涙を手で拭うと、坂木くんを抱きしめた。


坂木くんの心の中には今でもかおりさんが居る。
でも苦しんでいるのは何故?


かおりさんに会えばこの苦しみは消える?


私は坂木くんをギュッと抱きしめて、そのまま眠りに就いた。





< 36 / 72 >

この作品をシェア

pagetop