壊れるほど抱きしめて
「坂木くんお待たせ」
そう言って坂木くんの所に行くと、相変わらず無言で彼は歩き出す。
すると前から歩いてきていた男の人が、坂木くんの所に近づいて来て言った。
「聖也だよな?」
「……」
そう言われて坂木くんは立ち止まり、彼の顔を見て固まっていた。
「久しぶりだな……。元気だったか?連絡しても電話にもでないし……もしかして隣に居るのは……彼女?」
「違うっ!」
凄い怖い顔をして坂木くんは彼に言った。
私はそんな坂木くんを見るのが初めてで、体がビクッとなった。
「聖也、お前まだ……」
「おいっ、帰るぞ!」
そう言って先に一人で坂木くんは歩いて行く。
「お、おいっ、聖也!」
彼が坂木くんを呼んでも振り返らない。
彼は坂木くんに何か言いたげだったが追いかける事はしなかった。
私は彼に頭を下げて坂木くんの所に向かおうとした時だった。
「待って!君が聖也をここに連れてきたの?」
「え?は、はい」
「そっか、君が聖也を……これ俺の名刺なんだけど、載ってる携帯俺のだから、時間がある時に連絡くれないかな?君と少し話がしたいんだ」
坂木くんは一人で先に行ってるし、迷ったけど『わかりました』と言って名刺を受け取ると、急いで坂木くんの後を追った。
彼は坂木くんの後ろ姿を見て悲しげな表情をしていたのが気になったが、私は坂木くんの隣に追いつき隣を歩いたが、坂木くんの表情はまだ険しい顔をしている。
駐車場に着き車に乗ると、坂木くんは車のエンジンを掛けると走りだした。
さっきの男の人……見た事あると思ったけど、坂木くんのタンスの上に置いてる箱の中にあった写真の中に写ってた人だ。
その写真はどれも皆が笑っていたし、楽しそうだった。
彼は坂木くんの学生の時の友達だ。
きっと彼は坂木くんが変ってしまった理由を知っているんだろう。