壊れるほど抱きしめて




「俺がどんなに誘っても、聖也は出掛ける事はなかったし、無口になり笑わなくなった。そんな聖也を外に連れ出しただけでも望月さんは凄いよ。昔はさ、明るくて皆の人気者だったんだ」


真鍋さんは懐かしそうな顔でそう言った。
私は坂木くんの過去は知らないけど、写真を見ただけで明るくて、いつも笑顔だったんだろうってのは伝わっていた。


「中学の卒業式の日に聖也に彼女が出来たんだ。あんな顔立ちだから女の子からモテてたけど、聖也はその彼女がずっと好きでさ、卒業式の日にやっと気持ちを伝えて無事に付き合うようになったんだ。高校も同じだったし仲良くしてた。だけど高校二年の冬、その彼女……かおりは、自殺したんだ」


「えっ……」


自殺?どうして自殺なんて……。


「かおりはさ、聖也の前ではいつも笑顔だった。俺も近くにいたし、二人は幸せそうだった。だけどかおりは学校の屋上から飛び降りて自殺した」


私は言葉もでず、真鍋さんの次の言葉を待った。


「かおりはイジメに合ってたらしい。教科書に落書きされたり、聖也と別れろとか書かれてたり、弁当箱にゴミを入れられてたり、体操服を隠されたり、かおりが書いた日記を見てイジメられていた事がわかったんだ。毎日のように嫌がらせを受けていたら、精神的にも追い詰められたんだろうな……。それに直接的なイジメがなかったから誰がしたのかもわからなかったみたいだけど、かおりはそれが毎日続いて、耐えられなくなったんだろうな。聖也がかおりと付き合っているのを知ってても、告白とかよくされてたし、イジメたのは聖也を好きな奴だったんだろうけど、かおりは一人で抱えて、一人で泣いて、だけど聖也の前では笑顔でいて……」


かおりさんの事を想うと胸が苦しくなり、涙が溢れそうになる。





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