壊れるほど抱きしめて
「お仕事お疲れ様です!私も今仕事が終わって来ました」
「……」
何も言わずにかおりさんの父親は玄関の扉を開けた。
「お願いします!もう一度、もう一度だけ話を聞いてもらえませんか!」
私は玄関の前で土下座をして頭を下げた。
「お、おいっ、君!頭を上げなさい。こんな所でそんな事をされても困る」
「お二人が話を聞いてくれるまで帰りません」
私は頭を上げることなくもう一度お願いした。
「あなた……もう一度、話を聞いてあげましょ?」
「……わかった。君も頭を上げて中に入りなさい」
そう言われて私は頭を上げて立ち上がり、中へ入った。
リビングに通されて、ソファーに座るように言われた。
かおりさんの母親がお茶を入れて持って来て、ソファーの前にあるテーブルに置く。
かおりさんの父親も、着替えを済ませてリビングにやってくると、私の前のソファーに座り、母親もその隣に座った。
「どうして君はアイツの為にそこまでするんだ?アイツの事が好きだからそうしてるのか?」
「確かに私は彼の事が好きです。彼は私の事は好きじゃないですけど……。それに彼が今でも好きなのはかおりさんだけで、彼に直接聞いたわけではないですけど、彼の心の中にはいつだってかおりさんが居て、私はかおりさんには勝てません。彼と付き合いたいからこうして来てるんじゃありません。私は彼が昔みたいに笑顔になって欲しいんです。ずっと自分を恨んで生きてほしくないんです。もし私がかおりさんの立場なら、好きな人には笑っていてほしいから……」
私が話をすると、かおりさんの母親が立ち上がった。
そして何かを手に持ち戻ってくると、それを父親に渡した。
「今日、かおりの部屋に入って窓を開けた時、今まで思い出すと辛かったから部屋の換気だけしかしなかったけど、今日は何故だかかおりの机が気になって座ったの。そこで何冊かかおりが読んでいた本を手に取ってパラパラと捲ったら、一冊の本の間からこの手紙が出てきたの」
そう母親が言うと、その手紙を受け取った父親は手紙を読んだ。
手紙を全部読み終えた父親は、涙を流していた。