壊れるほど抱きしめて



ーーー私は玄関の扉を開けた。


「ただいま」


「え?小春?」


私はあれから一人でアパートに帰り、一週間分くらいの着替えを鞄に入れて実家に帰って来た。


「そんな驚かないでよね?娘なんだし」


そう言って私は笑った。


「だって帰ってくるなら連絡しといてくれたら買い物だって行ってたのに。娘が久しぶりに帰ってきて何もないじゃ嫌じゃない」


口を尖らせてそう言ってる母は嬉しそうな顔をしているけどね。


私は仏壇の前に座り、線香に火を付けて手を合わせる。


『お父さん、お姉ちゃん、ただいま』


そう心の中で言った。


「お母さん、一週間くらい泊まるね」


「いいけど仕事で何かあったの?」


心配そうに母は私を見て言った。


「そんなんじゃないよ。引っ越してから帰ってなかったし、たまにはお母さんの料理が食べたくてさ」


そう笑って言うと、母は安心したのか『じゃあ今から一緒に買い物行こう』と言って用意をしながら鼻歌を歌った。


こうして母の元気そうな姿を見て安心した。


それに……アパートに居ると坂木くんに会ってしまったら、抑えなきゃいけない気持ちが溢れそうになるならこうして母と過ごせば気持ちが落ち着くと思った。


それから母と買い物に行き、私の好きな食材を篭に入れていく。


買い物をして実家に戻ると母は嬉しいのか、キッチンに立つと料理をし始めた。


私は自分の部屋に荷物を置いて、部屋の窓を開けた。


坂木くん、今頃はどうしてるかな?
ちゃんと話は出来ただろうし、きっと大丈夫だよね?


そんな事を思っていたら『小春?』そう誰かが私の名前を呼んだ。




< 62 / 72 >

この作品をシェア

pagetop