壊れるほど抱きしめて
行為が終わると飲んでいたせいもあって、そのまま眠りに就いていた。
目が覚めたのはお昼前だった。
そこで私は気付く。
自分が裸で坂木くんと一緒にベッドに寝ている事を……。
目覚めて朝からこんなにドキドキしてハラハラしたのは初めてだ。
思い出すだけで自分でもあんな大胆に"抱いて"なんて言えたものだ。
そりゃ処女でもないし、彼氏は今は居ないけど、あんな事を言ったのは初めてだった。
それに付き合ってない人と体を重ねた事もだ。
冷静に考えても『これは事故だ』と言う答えにしか繫がらない。
私はそっとベッドを抜け出してスウェットを着ると、ベランダに干してある自分の服を取り、浴室へ向った。
幸いまだ坂木くんは寝ている。
お風呂を借りて落ち着かせなきゃダメだ。
じゃなきゃ気まずくて何を話したらいいかも分からない。
坂木くん自体が元々、口数も少ないし、無愛想だから何を考えてるかもわからないしね。
でも……
"かおり"さんってどんな人なんだろ。
あんなに辛そうに名前を呼んでる姿は、私まで苦しくなりそうだった。
あんな表情は一度も見たことがない。
過去に何かあったのかな?
気にはなるけど聞けない。
救い出せるなら救ってあげたいけど私はただの同期でお隣さんってだけで、たった一度、体を重ねたくらいで坂木くんが心を開いてくれる事はないよね。
私だって自分の殻に閉じ籠った時期もある。
幼い時に父を事故で亡くし、姉までも……。
飲んだ事もありたまたまそうなっただけ。
私が変に詮索してしまうのは迷惑でしかない。
今日の事は忘れよう……。
そう自分に言い聞かせ、お風呂から上った。