壊れるほど抱きしめて



お風呂から上がり、洗濯した自分の服に着替え、髪の毛を乾かす為にドライヤーをかけ、部屋に戻った。


すると坂木くんはズボンたけを履き上半身裸のままベッドに座っていた。


「おはよう。もしかしてドライヤーの音が煩くて起こしちゃった?」


「……別に」


相変わらず無愛想なのは変らない。


「シャワー浴びてくるから待ってて。用意したら会社まで連れて行くから」


「うん」


坂木くんはそう言って浴室に向った。


昨夜にあんなに激しく求め合ったとは思えないほどいつもと変らない坂木くん。


逆に私も変に気を使う必要はなさそうだ。


数十分後ーーー


私達は坂木くんの車に乗った。


工場に向うはずの車は、工場とは逆方向に向かう。
だけど私は『工場はこっちじゃないよ?』とは聞けなかった。
少し車を走らせ、坂木くんは定食屋の駐車場に車を停めた。


「腹減ってるし先に食べるけどあんたも食べるだろ?」


もうお昼過ぎで私もお腹が空いていた。


「うん」


二人で定食屋に入り座ると、おばちゃんが水の入ったコップを二つ持ってきた。


「いらっしゃいませ。注文が決まったらお呼び下さい」


そう笑顔で言って戻って行った。


メニューを見て私は海老フライ定食にすることにした。


「決まった?」


「うん、海老フライ定食にする」


私がそう言うと坂木くんは『すみません』と言い、さっきのおばちゃんが私達のテーブルに来てトンカツ定食と海老フライ定食を注文した。


料理が来るまで私達は無言のままで、何を話していいのかもわからなかった。


食べ終わると坂木くんは私の分のお金も払ってくれて、再び車に乗ると、工場の方に向って走りだした。


「奢ってくれてありがとう」


「……別に」


やっぱり表情は変わらず無愛想なままの坂木くん。


口癖は『別に』だ。


昔からこんなに無愛想だったのかな?




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