心愛(しんあい)
「……じゃあ、途中で死んだらどうなるのかな」
首に巻いたバーバリーチェックのマフラーに吸い込まれそうなほど小さなあたしの呟きも、修はちゃんと拾い上げて何、と聞き返してくれる。
こういうところが堪らなく好きだった。
「もし事故とかで死んじゃったときは、残った分の鼓動はどこに行くのかなって」
そんなのどこにも行くわけないんだけど。
自分の妙に文学っぽい考えが恥ずかしくなってそう付け足すと、繋いだ手の向こうからは真剣な唸り声が返ってきた。
見ると、馬鹿にするでも呆れるでもなく、真面目な顔で考える修の横顔。
「何、何でそんな真剣に考えてんのさ」
「んー、紗都は難しいこと考え付くなと思って」
やっぱ頭良いな。
自分だって推薦で大学決められたくらい成績優秀のくせに、そう言って屈託なく笑う顔には嫌みは全く見えない。
「……やめてよもう」
「ふ、紗都照れてる」
あのときはそれ以上発展することもなかったこの話題の答えを、あたしはその1年半後、大学2年の夏に知ることとなったのだった。