心愛(しんあい)
修がいなくなっても、あたしの生活はほとんど変化しなかった。
もともと遠距離のせいで月に一度か二度しか会えていなかったし、お互いの生活に入り込んでいくタイプでもなかったから、あたしの部屋に修の私物は服が少しとヒゲソリ、歯ブラシくらいしかなかった。だから、それを修のお母さんに返して修の家にあった同じくらいの量の自分の私物を受け取ったくらいで、部屋の雰囲気も変わりようがなかった。
大学は夏休みだったし、サークルには入っていなかったから、毎日ベッドの上で本を読んだり友達と飲みに行ったり、定期的に本屋のバイトをしたりした。
たぶん外見上は何も変わっていなかったと思う。バイト先の人にはそもそも彼氏がいることを言っていなかったし、修のことを知っている友達は、気を遣って誘ってくれた何度目かの飲みのときに「よかった、紗都が強い子で」と呟いた。
そう言わせるくらいの態度をとれる程度には、あたしは冷静だった。恋人を亡くした女としては、むしろおかしいんじゃないかと思えるほど。