叶わぬ恋ほど忘れ難い
1:口には出せない
「訴えないでね」
真っ赤になったわたしの耳を見て、店長が言う。
耳の軟骨にピアスホールをあけてもらったのは数分前のこと。
退勤後、店長が休憩室に来るのを待って頼み込んだのだった。軟骨にピアスだなんて経験ないから無理無理、と激しく嫌がる店長の腕を掴み、大事な休憩時間の大半を使って、どうにかこうにか説得に成功したのだった。
「スタッフの身体に穴あけちまった……」
軟骨に穴をあけるという行為が相当なトラウマになったのか、すっかり項垂れる店長の肩をたたいて笑った。落ち込まないで。訴えないし、後悔もしませんよ。大好きなあなたに、どうしてもあけてもらいたかったんです。軟骨に穴をあけるのなんて怖かったけど、わたしの耳に触れた店長の手が微かに震えていたから、それがどうしようもないくらい可愛くて、怖さなんて吹き飛んじゃいましたから。
なんて。口には出せないのだけれど。
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